先日、ネットで一部が公開されている頃から気になっていた田中圭一氏の実録コミック「うつヌケ」を読みました。
「うつヌケ」はこんな本
漫画家の田中圭一さんが、自らのうつ体験をきっかけに、有名・無名のうつ経験者の経験談をコミック化した本です。
けっこう重い内容ですが、同氏独特(?)のライトな画風で明るく描いているので読みやすい本だと思います。
自分もうつだったぽい
いろいろ感じるところ、考えさせられるところが多い本ですが、 筆者にとって、この本を読んでまず思ったことは、結論から言うと、
「ああ、僕はおそらく一時期うつ状態だったんだな。。。」ということでした。
以前にもこのブログで書いた、ある会社に在席した時期は、振り返ってみると当時はうつだったんじゃ無いかと思います。
本書によると、うつと気がついて医師の診断を受ける人は全体の一部で、それと気がつかずに働き続ける人が相当数いるようです。 その後筆者は比較的軽い状態でなんとか乗り切れたようです。
たとえば本書では、うつが寛解すると、周りの何でも無い景色が色鮮やかに見えて感動すると言うことが取材した人の口から何度も語られます。筆者にも心当たりのあることとして、こんなことがありました。
ある、とてもよく晴れた土曜日、朝起きると、お天気がいいはずなのに、自分の視界がモノクロ映画のように色彩が感じられず、薄暗く見えるように感じられて、「なんだかおかしいな。。。」と思いながらしばらくダイニングテーブルで呆然と座っていた、ということがあり、いまでもこのシーンをとても印象的にはっきり覚えています。
振り返ってみると、これはまさにうつの症状だったんだなと思います。
あと、疲れているはずなのに夜中に何度も目が覚めて、強烈な根拠のない不安感に襲われて朝まで眠れなかったり、原因不明の激しい胃痛に襲われたり。。。。って事も何度もありました。
労働時間を減らすことも大事だろうけど、裁量が与えられるか、サポートが受けられるかも大事
本書でうつのきっかけとなるパターンとして多く描かれているのは、過大な責任を与えられて労働時間が増え、うつを発症するパターンです。
筆者の場合、労働時間もさることながら、どちらかというと慣れないマネジメントをなんとかこなそうとするものの、周囲からのサポートはなく、裁量権のなさといったストレスが堪えた印象です。
そうはいってもあまりにも人間関係が閉塞的な会社でした。(中略)一例だけ挙げると、ここでは、社員が終業してオフィスから出るとき、誰一人として「お先に失礼します」の挨拶をしない会社でした。社外から電話がかかってきても、担当者が晩ご飯に行ったのか、帰宅したのか分からないくらいコミュニケーションがない会社でした。
僕自身も、プログラミングの腕を上げたくて入社したのに、コーディング作業はプリマプログラマの専権事項であったので、顧客対応や品質管理などで明け暮れて疲弊していきました。
前職の社長が地雷クライアントだった件 - ぽんぽこ日記 より
こんな感じだったのと、入社の前後で結婚したばっかりだったことや、ここをやめたら再就職できないのではないかと言った不安感から、会社を辞めることには抵抗がありました。
こういう八方ふさがりな状況が人を追い込むのだと今なら思えます。
仕事の内容的にも、いつの間にか扱う製品が顧客から高いサービスレベルを求められる製品を扱う会社になっていったことも大きかったです。世の人たち(=市場)が、すべてのITサービスにあそこまで高いサービスレベルを求めるわけではないのだと、他社に転職してはじめて知りました。昨年も新卒社員の不幸な事件が話題となりましたが、社会での経験が少ない人は追い込まれやすいということはいえそうです。
その後、別の会社に転職したあとも、開発リーダー的な仕事を任されて、仕事の内容としては似ていたのですが、周囲のサポートのおかげで、かなりプレッシャーが軽減されました。
たとえば、インフラ的な難易度が高い案件の場合は上司が他の案件と調整してインフラ部隊のエンジニアを専属でアサインしてくれたり、エンジニアがやらかしてしまった時も(状況によっては営業判断で)エンジニア抜きで客先に謝りに行ってくれたりと、個人に過剰な責任を負わせず、役割こそ違えてチームで力を合わせて質の高いものを作ろうという気持ちが共有されてました。
あと、自分としては、自分の裁量でコーディング担当を買って出ることができるようになり、プロジェクトに対して主体的に関わっているという実感・いざとなったら自分のコーディングで何とか出来るという自信も支えになりました。コーディングそのものも癒やしですしね。
こうした経験から言って、ぱっと見、同じような会社の同じような仕事であっても、精神的サポートがある環境かどうかとというのは会社によって大きく違うと思いました。
クリエイティブ・エネルギッシュで社交的な人でもうつになる
これまで社会に出ていろんな職場で働いてきましたが、クリエイティブでエネルギッシュな人でもうつになるときはなるという事は知っておいて良いと思います。「自分は大丈夫」ということはおそらくありません。
本書に登場する人などでも、各界の有名人が多数登場していて、「あの人にもそんな時期が。。。」と思わされることしきりでした。
筆者がある会社に在籍しているとき、とてもエネルギッシュでベンチャー精神あふれる取締役の方が退任される際に、うつであったことを明かし、その闘病記を資料として残して去られたことがありました。うつというと、生真面目で地味な人がなるもの、というイメージを持ちがちですが、例えいかにエネルギッシュな人といえども人間としてのキャパシティがあり、そのキャパシティを超えるようなつらい状況に長い間おかれた場合にはうつになるということを書かれていました。
そんなわけで、なんだか毎日つらいな、と感じている人や、今年から社会に出る人には一読をお勧めします。